社研卒業生の現在(いま)

松村智雄さん

現在、法政大学人間環境学部でご活躍の松村智雄さんに、社研在籍当時や最近のご様子についてお話を伺いました。

松村智雄さん

第2回「海外華人与中国僑郷文化国際研討会」にて。
開催場所は中華人民共和国広西チワン族自治区、欽州市

プロフィール

松村 智雄(まつむら としお)

法政大学人間環境学部(講師)
専門分野:東南アジア地域研究
   (主なフィールドはインドネシア)、
   華人研究、移民研究

社研在職期間:2009年5月~2010年4月

学術支援専門職員

 社会科学研究所でお世話になったのは、2009年5月から2010年4月であった。私は、学部時代から東南アジア地域研究を志し、学部4年時に教養学部の交換留学制度AIKOM(Abroad in Komaba)の派遣学生としてインドネシア国立ガジャマダ大学に1年間留学した。これがその後の人生航路を決める重要な転機であったと思う。卒業論文ではジャワのイスラム教徒の宗教実践を取り上げた。

 修士課程以降、東京大学大学院総合文化研究科にて東南アジア地域研究を専攻し、世界最多の華人人口を擁するインドネシアを中心として、東南アジアの華人社会について研究してきた。

 社会科学研究所の学術支援専門職員としてお仕事をさせていただいた当時は博士課程に在籍していた。博士論文執筆のための現地調査の予定を立てつつ、加納啓良先生(東京大学東洋文化研究所名誉教授、専門はインドネシア経済史)の授業に参加していた。先生はよく私の研究上の相談にのってくださった。

 その中で、加納先生や社会科学研究所の先生方が中心に進めておられたJICAのプロジェクトのお手伝いをさせていただく機会を与えられた。それは、インドネシアからの博士課程留学生受け入れのプロセスの中で、さまざまな日本の大学の博士課程に進学しているインドネシアからの大学院生のサポート、定期的な進捗状況報告のためのセミナーの開催を主な業務とするものであった。当時の留学生たちは、定期的に開催されるセミナーにおいてインドネシアを専門とされている先生方や社会科学研究所の先生方からのフィードバックを得て博士論文を完成させていった。私にとっては、様々な学術領域で研究されている先生方とお知り合いになり、インドネシアの若い世代の研究者の研究に直に触れることができた貴重な経験であった。当時は中村圭介先生(現法政大学教授)の研究室の一部をお借りして作業をさせていただいた。

 この仕事を退職してすぐにインドネシアでの約1年の長期調査に入った。インドネシアの華人社会の動態に関する調査であったが、特に華人の集中度合いが高い西カリマンタン州(ボルネオ島インドネシア領の西部)に焦点を当てた。このフィールドワークを基に博士論文を執筆し、2013年3月に博士号を取得した。この博士論文に改訂を施したのが拙著『インドネシア国家と西カリマンタン華人:「辺境」からのナショナリズム形成』(慶應義塾大学出版会、2017年2月出版)である。

 本書が取り上げる西カリマンタンは、インドネシアのナショナルな国家建設の中では比較的後進地域とされている。しかしそうだからこそ、そこに暮らす人々は自前のネットワークを保持し、ジャカルタや台湾、香港、サラワクなど多地域に生活の糧を得るために移動し、自助的な活動(国民国家に期待しない活動)を展開してきた。このような活動は、国民国家単位では理解できない性質のものであり、それとは違った地域理解が必要とされる。本書は、従来のインドネシアという枠組みを前提としたジャワ偏重傾向の中で、それを前提とすることなく、地域理解を試みた地域研究の成果と位置付けられる。


写真:カリマンタンを流れるカプアス川(ポンティアナック市にて撮影)


写真:西カリマンタン、シンカワン市の街並み


写真:左右ともシンカワン市の元宵節(旧正月 15日目の祝祭)の風景


 華僑華人は、これまで居住国の国家建設、国民統合におけるその同化過程に注目が集まり、国民国家との関係が強調されてきた。その結果、居住国のナショナリズム形成に積極的に発言してきた人々、そうでなければ中国への帰属を強調してきた人々に関心が偏ってきたと言える。そうではない、いわゆる「物言わぬ民衆」が経験した新しい国家の編成過程はこのような明確な政治意識のみによって汲み取れるものではないと私は考える。そして本書において、どのようにしてこのような国民国家、ナショナリズムのバイアスから距離を置いて彼らを理解することができるのか、という点に取り組んだ。

 2017年9月より法政大学人間環境学部持続可能社会共創プログラム“HOSEI-SCOPE(HOSEI University, Faculty of Humanity and Environment, Sustainability Co-Creation Programme)講師として英語で行われる授業を担当している。そこでは、東南アジア研究の蓄積を生かして持続可能性をテーマに、民族多様性の中の共生、紛争解決、平和構築、自然環境と人間の活動の相互作用、国境学などのテーマを取り上げている。また、国民国家と人々の移動というテーマと関連して、国際結婚、移民、国籍、市民権をめぐる問題について議論するセミナーも開講している。

 講義をする中で、主な研究分野を基盤にして、それをいかにより広い研究分野の中に位置付けられるかということを絶えず考えるようになった。それが自身の研究分野の存在意義となるからだ。華人について研究することは、諸民族の持続的な共生のモデルについて考えることではないか。またそれは、国民国家中心ではない「地域の歴史」を研究することにつながる。さらに、現在のグローバル化した状況下では、一つの国民国家の中にさまざまな背景を持つ人が混住し、彼らひとりひとりが世界を跨ぐネットワークの結節点になっている状態が普通になってきている。これに対して国民国家は、流動性を増している人々をコントロールする技術を深化させ、人々や情報などの流通をコントロールし続けるであろう。流動化する人々、モノ、情報と、それを管理する国民国家の相互関係として世界を把握する視座が必要とされているようである。


日本も「一つの国民国家の中にさまざまな背景を持つ人が混住」する状況にどんどんなってくることでしょう。今後は先生のご研究がますます注目されてくると思います。今日は写真もたくさんご紹介いただきありがとうございました。

(2017年12月19日掲載)


最近、嬉しかったことは何ですか?

9月初めに長男が生まれて、家庭が賑やかになった。妻はインドネシアの西カリマンタン出身で結婚までは多くの困難もあったが、それを協力して乗り越えて昨年結婚し、今年子どもを授かった。なによりも健やかに育つよう、そして世界のどこに行ってもすぐに覚えてもらえるような健(けん)という名前を長男に与えた。

写真:妻と早稲田大学にて

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