研究活動
プロジェクトセミナー
ローカルガバナンスと資格認定:福井県の要介護認定を事例に
- 報告者: 荒見玲子 (東京大学社会科学研究所)
- 日時:2013年10月15日 14時50分-16時30分
- 場所: センター会議室(赤門総合研究棟5F)
- 対象:学生・院生・教職員
報告要旨
地方自治体の現場では、介護保険の受給に値する「要介護者」はどのような論理・力学の下、再構成されるのか。社会保障の受給資格認定の実施過程というのは、福祉プログラムの供給をとおして、限られた資源、財源はどのように分配されるのか、というまさに “who gets what, when, how”の決定を体現する場面だと考えられ、そこにおけるガバナンスを問うことは政治学・行政学的に重要であろう。
様々な社会保障の受給資格認定の制度設計と比較して、要介護認定のプロセスは認定調査員、認定審査会、市町村の業務担当者、といった複数の主体に委任され、分業されている点に特徴がある。つまり「要介護者」の決定が社会に委任され、同時にその結果(価値)が社会に埋め込まれ、相互にフィードバックする、福祉国家の外縁が変化していく過程ともいえる。分業という点では入力情報を確定する段階においては、調査員、クライアント(調査対象者とその介護者)、行政の三者関係が、情報の国が定めた基準にそった解釈、認定・審査については、審査会合議体構成員間と行政の関係が展開される。両プロセスにおいて、各主体間の分業、委任、協働、責任分担はどうなっているのか。メタプレイヤーでもあり、プレイヤーでもある行政はどのような調整活動を行なっており、その帰結はどのようなものか。
本報告は、分業の各段階ではなく、各段階の統合を行う自治体の担当部署の役割に焦点をあてて構成される。報告者が2011年から2012年にかけて福井県内で行った、複数の保険者職員・認定調査員・審査会委員のインタビュー調査や、アンケート調査等を組み合わせて自治体間の比較事例研究を行う。事例の紹介が主となるが、複数の主体の間での分業と委任から成る多層な関係を解きほぐし、社会保障の受給資格の認定が求める公平性と個別性への対処という、同時に満たすことが難しい要請に地方自治体がどのように対処しているのかを示し、知見を整理した上で示唆を得ることを目指す。