研究活動

プロジェクトセミナー

帰納論的ゲーム理論とその応用

報告要旨

本報告では、筑波大学の金子守氏と筆者が創始した帰納論的ゲーム理論の枠組みを紹介し、その応用を考察する。
 ゲーム理論はしばしば合理的な個人を想定してきた。ゲームに関する個々のプレイヤーの知識ないし認識は(不確実性もリスクという形で)前もって与えられており、それと同時に典型的には期待利得最大化という行動原理を仮定したうえで、個別のゲームにおいてプレイヤーがどのような選択肢を採るかということが分析される。このようなゲーム理論は演繹論的ゲーム理論とでも呼ぶべきものである。
 演繹的ゲーム理論のアンチテーゼとして注目を集めたのが進化論的ゲーム理論である。これは一種の動学過程で、たとえば過去に成績のよかった行動を採るプレイヤーが増え、そうでない行動が廃れていくという過程を考察する。この過程で、ゲームに関する知識は必要とされないし、それをプレイヤーたちが考えるという行為も問題にはされない。
 帰納論的ゲーム理論はゲームに関する先験的知識は持たず、まずゲームの経験ありき、という点では進化論的ゲーム理論と同様の立場を採る。しかし、帰納論的ゲーム理論のプレイヤーたちは、ゲームを理解し、そのモデルを構築しようとする、という点で他の二つのアプローチと異なっている。経験から社会の一般法則(ゲームの形)を導こうとする、という点でこの行為は帰納的な行為である。
 応用問題として、障害者等の隔離と烙印の問題を考える。Kaneko & Matsui(1999)は、社会の中で「白紙」の状態から経験を積み重ねた人間がどのような社会像を作るか、という問いを立て、差別行為を通じて偏見が生まれるメカニズムを分析した。そして、何らかの理由で区別されている集団が、別の集団から烙印を押され、忌避されることがある程度必然的に出てくることを示した。時間が許せば、いじめの問題への応用も紹介する。

          
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