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大蔵省統制の財政社会学:ガバナンスの危機に直面する日本財政

報告要旨

 本報告では日本の大蔵省統制の特質を歴史的に追跡しながら、財政を通じたガバナンスがどのように危機に直面しつつあるのかについて考える。
 一般に財政統制は大蔵省統制と議会統制に区別される。この大蔵省統制という用語は、もともとイギリス大蔵省が人事統制と財政統制を軸として、政策や行政組織を統括した事実にもとづいて概念化されたものである。しかしながら、1930年代の管理通貨制度への移行とともに、イギリスとは異なるコンテクストにおいてわが国でも大蔵省統制が形成されていった。日本の大蔵省統制の特徴は、中央銀行との政策協調、地方の財源統制、政策金融による小さな政府などに支えられながら、予算の総額を重視する巨視的な予算編成(マクロ・バジェッティング)に力点が置かれた点に求められる。他方で、マイクロな資源配分は、シーリングによって個別の予算総額に枠をはめる一方、公共事業費を例外的に扱いつつ、その内部で族議員政治を媒介として利益分配を実施するというかたちで行われてきた。
 こうした予算統制のあり方は、税収の増大が予測可能であり、社会インフラに対するニーズが都市と農村の双方に存在する状況のもとでは合理的なものであった。しかしながら、政治的発言力の農村から都市へのシフト、産業構造の転換と女性の社会進出、少子高齢化の進展といった政治的、経済的、社会的構造変化とともに財政のニーズは変化し、従来の総額重視の予算統制ではこの変化に柔軟に対応することが困難になっている。こうした制度疲労は「共同需要の共同充足」を本質とする財政の機能不全と結びつく問題であり、貨幣による統治が困難になるなか、人びとの租税抵抗は空前の財政赤字というかたちで財政危機をもたらしている。
 以上の見通しのもと、日本の大蔵省統制がどのように形成され、それがどのように機能不全に陥りつつあるのか、財政社会学の視点から論争提起的に報告することとしたい。

※ディスカッション・ペーパー「大蔵省統制の財政社会学:ガバナンスの危機に直面する日本財政」は、研究成果のページからご覧になれます。

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