研究活動

プロジェクトセミナー

なぜ戦後日本の経営者は株主を重視しなかったのか

報告要旨

 日本の商法、証券取引法など公開会社に関わる法律は株主の権利の尊重を規定しているにも拘らず、経営者が株主を重視しなかったのはなぜかを、戦後から90年代半ばまでの時期を対象として考察する。戦後の経営者が株主を重視しなかったのは、(1)市場による規律の欠如、(2)監督する大株主の不在、(3)投資家の支配に対する懐疑、による。(議決権を通じて会社を支配するのは株主だが、いつでも株式を売却できる流通市場を前提とすると、現在の株主とこれから株を買おうとする潜在的株主を同等に扱わなくてはならないので、まとめて「投資家」と呼ぶ。)  だが、その背後に、(a)発行市場の欠陥、(b)株価形成の非効率性、(c)投資家の短期的・投機的傾向、という構造的な要因がある。これらの構造的要因は相互補完性やスパイラル現象(経営者の株主を重視しない行動そのものが構造的要因を強化し、それがまた経営者の株主を重視しない行動を惹起する)により、強化・維持された。  株式市場で株価が効率的・合理的に形成されないと、市場の需給調整機能が機能しない。だが、発行市場の欠陥や流通市場における株価形成の非効率性により、市場による規律が働かなかった。また、財閥解体による大株主の消滅、株式持ち合い、機関投資家の不在により、監督する主体となる大株主もいなかった。更に、投資家の短期的・投機的傾向、株価形成の非効率性により、経営者は投資家による会社支配に対して懐疑的になった。投資家の短期的・投機的傾向は、明治の株式市場の創設時に、江戸時代の堂島米会所の先物取引の仕法が取り入れられ、投機的な流通市場を中心に発達したことが背景となっている。  このように、戦後日本の経営者が株主を重視しなくなったのは、株式市場の機能不全(発行市場の欠陥、株価形成の非効率性)と投資家の短期的・投機的傾向が要因である。

※ディスカッション・ペーパー「株主を重視しない経営」は研究成果のページからご覧になれます。

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